プラチナバンドのトリック
前回のコラムでは、有線通信の方が無線通信より周波数が高いので通信速度が速いということを説明しました。ところが、4Gの無線通信に使わる周波数のうち、1.7GHzや2GHzよりも周波数が低い800MHzの方が、プラチナバンドと呼ばれるほど実は無線通信として有利なのです。今回は、その逆転現象のトリックに迫ります。
既に4Gではプラチナバンドの700~900MHz帯の周波数帯が、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクに割り当てられており、新規参入の楽天モバイルは、機会の平等を求めて、総務省に700~900MHz帯の割り当て見直しを求めるほど、各社でプラチナバンドの奪い合いになっています。
実は、周波数が低い800MHzの方が、通信に有利であるという逆転現象が起きる理由は、無線ならではの電波の性質が2つ関係しています。
1つは、電波の直進性です。一般に、周波数が高い電波ほど、直進性が高くなるという性質があります。直進性が高いということは、それだけ電波がビルの影などに回り込みにくくなります。つまり、周波数の低いプラチナバンドの方が、電波が回り込みやすく、より広範囲に届きやすいのです。
もう1つは、電波の減衰性です。一般に、電波は周波数が2倍に高くなると、4倍減衰しやすくなります。したがって、基地局から端末に電波が届くカバーエリアは、周波数の低いプラチナバンドの方が広くなります。また、屋外と屋内の間にある、建物の壁を通過する際も、その減衰量はプラチナバンドの方がはるかに少ないので、周波数の低いプラチナバンドの方が屋内に電波が届きやすいのです。
これは、周波数の高い(=波長の短い)青色の光の方が、周波数の低い(=波長の長い)赤色の光に比べて、遠くまで届きににくく、夕陽が赤いのと同じ現象です。
このように、無線通信においては、必ずしも周波数が高いほど良いとは限りません。最近よく耳にする5Gは、実は3.7GHz、4.5GHz、28GHzと4Gよりも高い周波数を使います。これはより多くの情報を運び通信速度を上げるという点では有利ですが、電波の回り込みが小さく、減衰も含めた電波の届きやすさの点で言えば、プラチナバンドより大きく劣ります。これが現在5Gのエリアが極端に狭い本当の理由ではないでしょうか?
このため、現状では5Gの狭いカバーエリア(スモールセル)を、プラチナバンドの4Gの広いカバーエリア(マクロセル)内に複数配置して、5Gのネットワークと4Gのネットワークが連携するヘテロジニアス・ネットワークとして、運用していくことが進められています。
しかし、将来的にはプラチナバンドが5Gになるので、そのころには本格的に5Gのメリットを感じることになると予想されます。